2018年から醸造長として働く柴田さん。
柏の葉にある醸造所でビール好きなメンバーとともに日々奮闘している柴田さんに、ビール造りを仕事に選んだ経緯やその魅力、今後のビジョンについて聞きました。
『初陣』を飲んで納得し入社
エバーブルーに入社するまでの略歴を教えてください。
九州の生まれで、工業高校を卒業後、東京の大手システム開発会社に就職してシステムエンジニア(SE)になりました。
田舎で生まれ育って、都会でスーツ着てパソコンを使う仕事がカッコいいと思って。
でも、一日中ひたすらパソコンの画面に向かうばかりで、無性に人と話したくなったんです。
それで思い立ったのが、人が集まるカフェで働きたいということでした。
なるほど。それで飲食業に転じたわけですね?
1年ほど調理の専門学校で学んでから、ある飲食店に転職し、約10年勤めました。
厨房が主でしたが、新店舗の立ち上げや接客にも関わりましたよ。
そこからエバーブルーに転職したのは、どういう経緯がありましたか?
まずきっかけは、前職で「醸造」という仕事に出会ったところからですね。
社会人になってから、ビールが好きになったんです。
友人といろんな店を飲み歩く中、ベルギービールのヒューガルデン・ホワイトやアイルランドのギネスといったピルスナー以外のおいしいビールを知って、その多様性に魅かれるようになりました。
そんな話を当時の上司にしたら「うちの会社もクラフトビール造っているよ」と。
そうだったんですね!
僕もそれまで知らなかったんです。
そこで、社内公募でビール醸造部門に異動し、下積み的にビールの仕込み作業などを手掛けました。
そのビールは多くの直営店に出していたんですが、当時かなりの店を閉じることになってしまいました。
それは大変ですね。
たしかに大変ではありましたが、ビール造りは本当に楽しくて!
それで転職することにしました。
会社の先輩がエバーブルーの当時の取締役と知り合いで当社にお世話になることにしましたね。
ビール醸造の仕事をする上で、エバーブルーへの入社を決めた要因とは?
2018年の、ちょうど五反田の東京醸造所を立ち上げるタイミングでした。
まだ国内でビールは造っていませんでしたが、代表の菅原さんがレシピを書き、ベルギー子会社で造っている『初陣』を飲んだんです。
それを気に入ったと。
最近の激しくホッピーなクラフトビールではなく、やさしい味わいでどんな食事にも合うビールだと感じました。
さすが、飲食店が造るビールだと。
こういうビールを造る人とぜひ一緒に働きたいと思ったんです。
自らの手で醸造所をチューニング
入社後は東京醸造所の立ち上げから関わったんですね?
はい。
小さなパイロットプラントで、設備面から税務署への届け出、レシピ作りなどひとりでいろいろと経験させてもらいました。
現在の、千葉県柏市の「柏の葉キャンパス」駅近くに移転した経緯とは?
五反田を立ち上げるときから、代表の菅原さんは現在の柏市のブルワリーで稼働している設備を購入していたのです。
五反田でパイロットプラントを動かしながら、より大規模なプラントを造る場所を探していたんですが、都内には見つかりませんでした。
そんな中、柏の葉キャンパス駅周辺の再開発を手掛けているディベロッパーに菅原さんの知人がいて、2019年に「この場所にブルワリーを造りたい」と声をかけてもらったんです。
なるほど。
そこで、菅原さんとふたりで現地を見に行きました。
何もない原っぱでしたが、駅前は開発が進んでいて、赤ちゃん連れの若い家族が多く歩いていたんです。
そこで「これから醸造所を立ち上げる自分たちと同じで、一緒に成長していける街なんじゃないのかな」という菅原さんの言葉に共感しました。
素敵ですね〜。
街とともに成長していくなんて。
この区画の第1号として移転しました。
その半年後にお向かいの店ができ、あとは立て続けにできていきましたね。
まだ駅との間は開発中ですが、繋がれば一帯はすごく魅力的なエリアになると思います。
実際に今、ここに集まっているオーナーさんたちとイベントの打ち合わせをしたりと、地域を盛り上げていくことにも取り組んでいるところです。
それは楽しみですね!
でも、この醸造所を立ち上げるのにもいろいろ苦労があったのでは?
はい。
建物を建て始めるタイミングが2020年2月で、ちょうどコロナウイルスの感染拡大が始まる時期でした。
建設会社などとの細かいやり取りが難しくて、作業動線や設備配置などの希望がうまく伝わらなかったんです。
どうなったんですか?
竣工して実際に設備を入れてから、いろいろな不都合が生じました。
当初冷暖房がなくて、寒い日は発酵が始まらなかったり、結露が生じたり。
虫やコウモリが飛び込んだりもしました。
大変でしたね。
大事な温度管理はどうすればうまくできるか自分なりに調べたり、業者さんにも意見をもらいながら改修したりしましたね。
業者さんもブルワリーに詳しいわけではありませんから。
でも、そうやって自分たちの手でチューニングを重ねることで、自分たちが仕事しやすい醸造所になりますよね。
そうですね。
今でもあちこちいじっていますが、徐々によくなってきています。
なるほど。
醸造所のスタッフもやりがいがありますね。
今、メンバーは何人ですか?
私以外に社員がふたりと、アルバイトがひとりです。
マネジメントで心掛けていることとは?
醸造長という立場も、管理職という立場も初めてのことで勉強中ですが、まずはビール造りの仕事がしっかりできる人になってもらうことです。
私はかなり口うるさく何度でも注意していますが、幸いメンバーはみんなビールが好きでビール造りが真剣にやりたくて入ってきた者ばかりなので、ちゃんとついて来てくれていますよ。
もっとも、普段はよくバカ話もしていますが(笑)。
ビール造りがしたい人には、いろいろなことが経験できる絶好の職場ですね!
そう思います!
ベルギー人から「本当においしい」と言われるビールを造りたい
設備の概要を教えてください。
1回の仕込みで800L、350mL缶が2000個造れる発酵タンクが3基、1500Lのが3基と、800Lの熟成用のタンクが6基あります。
これで年間8kL製造できる見込みです。
何種類のビールを造っているんですか?
コロナ禍の影響もあって、本格的にフル稼働を始めたのは2022年の4月頃なんですが、11月までの半年で12種類造りました。
毎月1種類は新作を造っています。
すごい多品種ですね!
ベルジャンタイプ(ベルギービール)のセゾン・ホワイトと、国内で今流行っているIPA(India Pale Ale)を基軸に、アルコール度数の高低やフレーバーなどでバリエーションをつけています。
エバーブルーは元々ベルギービール専門店からスタートしているため、ベルギービールへのこだわりがあるのと、IPAは最近のクラフトビール愛好家によく飲まれているからです。
なるほど。
お客様のニーズに応えるのと、自社のこだわりという軸ですね。
はい。
バリエーションについては、当社は30店舗以上の直営店を展開していることで、私たちが造ったビールに対して、”お客様がどう反応するか”を確かめる機会に恵まれているため、直接の反応を見ながら新しいビール造りに活かしています。
素晴らしいですね。
また、そもそもベルギービールも種類が多いですよね。
そうですね。
多様性があるので、いろいろな楽しみ方が提案できる魅力があると思います。
なるほど。
直営のカフェ・レストランだけでなく、卸もしているんですね?
はい。
酒販店や百貨店、スーパー、レストランなどに卸していますし、問屋さんにも提供しています。
今はまだ一部ですが、今後設備を倍の規模に増強し、外販比率を直営店舗と同等まで増やす計画です。
そのためにも、ベルジャンタイプとIPAでひとつずつ、当社のフラッグシップとなるブランドを作りたいと考えています。
商品企画も柴田さんが手掛けているんですか?
私と菅原さんで意見を出し合って造っている感じですね。
決められたレシピどおりに造るだけでなく、自分でレシピも造れるのは面白そうですね。
そのとおりです。
このブルワリーを人気No.1にすることが目標ですが、どうすればいいか、ビール造りはもちろん、ラベルのデザインやSNSでの発信などいろんなことに関われるので非常に面白いです。
そんな中、肝心のビール造りへの柴田さんのこだわりとは?
原点である、本格的なベルジャンタイプのビールを造ることです。
例えば、水質はベルギーと日本で全く違いますが、日本の軟水にミネラルを加えて現地の水質に近づけています。
また発酵タンクも、スペース効率を考えれば縦長にするところですが、そうすると重量で酵母にストレスがかかってしまいます。
そこで、あえて場所を取る横長にしています。それで香りの出方が全然変わります。
こだわりが伝わります。
目標はありますか?
目標は、ベルギーの人から「本当においしい」と言ってもらうことです。
本場に認められるってことですね。
それ以外にチャレンジしたいことはありますか?
ビール原料の麦汁を蒸留してジンを造る計画を進めています。
直営店に出すことでお客様の選択肢が増え、より楽しんでいただきやすくなると考えています。
また、このブルワリーでは無濾過のビールを造っていますが、これを遠心分離機にかけて酵母を飛ばすことで安定性を高めることで常温流通できるようにさせます。
そうすれば、冷蔵設備のないお店にも置けますし、輸出もしやすくなります。
なるほど。
新たな試みにチャレンジしているんですね。
これからもがんばってください。
ありがとうございました!